雪の香の物語 6(6/6)

2024年3月1日金曜日

物語(短編小説)

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雪の香の物語 1(1/6)

雪の香の物語 1(1/6)

   「雪の香の物語」 (ゆきのかのものがたり)      1  大公の名を世に知らしめたのは、そのずば抜けた美貌だった。


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      6







 何だろうか、ほのかに覚えのある、つんと澄んだ香り。



 荷を運んでいる男のひとりが、身震いして仲間に言った。

「寒いと思ったら、見ろよ。珍しく雪だぜ。」




    雪! そうだ、妃の香りだ! 雪、ああ、一度でいい、雪が見たい!




 その時、運んでいた男がかじかんだ手を滑らせ、がたりと音を立てて額を取り落とした。


覆いの布が落ち、あらわになった大公の肖像の美しい黒髪の上に、葡萄のような紫の瞳の上に、淡い粉雪がはらはらと降りかかった。



   つめたい。これが雪か。


思わず天へ伸ばした手に、雪が次々と落ちて溶けた。

大公は驚いて両手を見た。


その向こうに、寂れた我が城と、急いで絵を運び込む男たちの後ろ姿が見えた。


胸に触れ、足元を見た。

彼はしっかりと地を踏んで立っていた。


その足元がけぶるほど、雪がとめどなく舞い落ちた。


そしてその雪の彼方に、しんと佇(たたず)む白い影があった。




    まさか。




 震えをこらえてよろめき出た大公の足は、だが次第に速くなり、ついに全力で影へと駆け寄ると、その膝に転がるように倒れこんだ。


 「妃。」



 夢中で抱きしめた妃の体から、ひときわ強く清々しい香りが立ち、大公を包んだ。


ドレスはほてった頬にひんやりと冷たく、その下の体の確かさは、彼を幼子のように安堵させた。


大公はいまこそ理解した。

長い長い来し方、何が自分を苦しめていたのかを。


何を、自分は求めていたのかを。




 「妃、私は寂しかった。さみしかった。」


頬を濡らして、「冷血公」はしゃくりあげた。

妃は黙って、彼の頭に手を置いた。


「そなたに会いたかった。

ずっと、私は   そなたを、とても好きだった。


ああ、私は・・・今になってこんな、今になって」




 「我が君。」



白い手で静かに大公の髪を撫でながら、妃はそっとささやいた。



「わたくし、存じておりました。」






 そして雪が、しんしんと、ただしんしんと、二人の姿を白く溶かしていった。





















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雪の香の物語 1(1/6)

雪の香の物語 1(1/6)

   「雪の香の物語」 (ゆきのかのものがたり)      1  大公の名を世に知らしめたのは、そのずば抜けた美貌だった。






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作者



花陽(かよう)
詩人 


10代の頃から長年に渡る作品を
順不同で更新する詩の部屋です


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