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6
何だろうか、ほのかに覚えのある、つんと澄んだ香り。
荷を運んでいる男のひとりが、身震いして仲間に言った。
「寒いと思ったら、見ろよ。珍しく雪だぜ。」
その時、運んでいた男がかじかんだ手を滑らせ、がたりと音を立てて額を取り落とした。
覆いの布が落ち、あらわになった大公の肖像の美しい黒髪の上に、葡萄のような紫の瞳の上に、淡い粉雪がはらはらと降りかかった。
思わず天へ伸ばした手に、雪が次々と落ちて溶けた。
大公は驚いて両手を見た。
その向こうに、寂れた我が城と、急いで絵を運び込む男たちの後ろ姿が見えた。
胸に触れ、足元を見た。
彼はしっかりと地を踏んで立っていた。
その足元がけぶるほど、雪がとめどなく舞い落ちた。
そしてその雪の彼方に、しんと佇(たたず)む白い影があった。
まさか。
震えをこらえてよろめき出た大公の足は、だが次第に速くなり、ついに全力で影へと駆け寄ると、その膝に転がるように倒れこんだ。
「妃。」
夢中で抱きしめた妃の体から、ひときわ強く清々しい香りが立ち、大公を包んだ。
ドレスはほてった頬にひんやりと冷たく、その下の体の確かさは、彼を幼子のように安堵させた。
大公はいまこそ理解した。
長い長い来し方、何が自分を苦しめていたのかを。
そしてその雪の彼方に、しんと佇(たたず)む白い影があった。
震えをこらえてよろめき出た大公の足は、だが次第に速くなり、ついに全力で影へと駆け寄ると、その膝に転がるように倒れこんだ。
「妃。」
夢中で抱きしめた妃の体から、ひときわ強く清々しい香りが立ち、大公を包んだ。
ドレスはほてった頬にひんやりと冷たく、その下の体の確かさは、彼を幼子のように安堵させた。
大公はいまこそ理解した。
長い長い来し方、何が自分を苦しめていたのかを。
何を、自分は求めていたのかを。
「妃、私は寂しかった。さみしかった。」
「妃、私は寂しかった。さみしかった。」
頬を濡らして、「冷血公」はしゃくりあげた。
妃は黙って、彼の頭に手を置いた。
「そなたに会いたかった。
ずっと、私は そなたを、とても好きだった。
ああ、私は・・・今になってこんな、今になって」
「我が君。」
妃は黙って、彼の頭に手を置いた。
「そなたに会いたかった。
ずっと、私は
ああ、私は・・・今になってこんな、今になって」
「我が君。」
白い手で静かに大公の髪を撫でながら、妃はそっとささやいた。