「花山岸」
(はなやまぎし)
桜は咲いて散こぼれ
こぼつ水面(みなも)は黒髪の
緑の若子(わくご)の匂ふ影
押し寄す程に重く垂れ
西明かり差す岩肌に
けぶれるまでに薄紅(うすべに)の
彩を落としてゆらめけど
鬱と瞼を閉ざしゐる
その瞳にこそ映らずば
色も褪めたり山桜
こち見よ吾子(あこ)よ 眼前の
頭上の紅(くれなゐ)むせかえる
その唇元(くちもと)の笑みに逢ひ
褪せることとは知りつつも
これが我らの盛(はな)の宵
現世(うつしよ)惑ふ春の宴
※彩 (あや)
※鬱 (うつ)
※瞼 (まぶた)
※瞳 (ひとみ)
※褪めたり(さめたり)
※褪せる (あせる)
※惑ふ (まどう)